キタテハ |
「寒さ、暑さも彼岸まで」という言葉があるが、本
当にそうだ。
自宅から30分くらいのところに、まだ、わずかに
残った田んぼがあり、田園風景が広がっている。
お彼岸の中日(3月21日)、散歩がてら行ってみ
た。
モンシロチョウの初見日かな、と思っていたが、田
んぼのまわりには何頭も羽化したてが飛んでいた。
そんな時、すういすういとキタテハが飛んできた。
羽を広げ、思いっきり春の日を浴びている。
長い厳しい冬をやっとしのいだのだろうか。
茶色い翅が擦り切れて痛んでいる。
ぼくはその姿をいとおしい思いでじっと見ていた。
まるで長い、サラリーマン生活を終え、ゆったりと
新しい生活をスタートさせた人そのものに見えたか
らだ。
きっと元気に青春を謳歌したときも、恋人との出会
いも、楽しい仕事やつらい仕事、耐え忍ぶ時もあっ
たのだろう。
どこにでもいて、あまり虫屋さんからも人気はない
が、キタテハにはまさに人生が映し出されているよ
うな気がした。
やがて、ゆっくりと飛び立っていったが、残された
最後の時間が幸せであってほしいと、思わず願った。