ウラナミジャノメ |
就職して大阪に勤務することになり、母に「大阪にいくことになったよ」と
告げた。その時の母の寂しげな、不安そうな顔を覚えている。
「お前、箱根の向こうに行ってしまうのかい」
東京人にとってその頃は箱根より向こうはまだなにかなじみのない世界
であった。その前の年、新幹線が開通したばかりであった。大学4年の
時、卒業記念に友人4人と車で九州一周旅行を計画したが、僕らのトヨ
タ車は箱根をなかなか越えることが出来ず、ラジエーターを雪で冷やし
ながらやっと山越えが出来た。
蝶たちにとっても箱根は何か越えがたい難関のようなのはおもしろい。
ウラナミジャノメやキリシマミドリシジミは西日本から分布を広げ箱根辺
りまでは生息するのだが、母と同じような昔気質なのか関東平野にはず
かずかと入って来ない。
この蝶とそっくりなのがヒメウラナミジャノメだ。
眼状紋の数が違うだけでまるで兄弟のようだが、こちらはどこにでもい
る。その生態の違いはまだ分かっていない。
ウラナミジャノメを観察するために大阪まで出かけた。朝一番の「のぞ
み」に飛び乗り、また午後の「のぞみ」でとんぼ返りで帰京した。
半世紀も経って東京人の感覚もすっかり変わっているのである。