タカネヒカゲ |
プスに棲むタカネヒカゲと会うことはもうないだろうなと思っていた。
夏の初め、息子が「ついて行ってあげるからもう一度チャレンジしてみ
たら。ダメだったら引き返せばいいんだし」と言ってくれた。そんな言葉
に後押しされて北アルプスに挑戦することになった。
もう40年前のことになる。小学校3年生だった長男と幼稚園児の次男
を連れて、上高地から蝶が岳に登ったことがある。頂上から見る穂高の
大展望にしばし見とれた記憶がある。それから40年、息子もそろそろ
50歳に近い。
アルプス初心者が無謀な挑戦をして大丈夫なのだろうか。
朝の5時半、登山口から登り始めた。カメラや望遠レンズなど重いもの
は全部息子が持ってくれた。ゆっくりと登る。5時間かかるところ、7時
間でいいと考えた。石のゴロゴロした歩きにくい登山道が続く。長雨の影
響か、水が流れ、沢のようになっているところもある。
標識に「あと500メートル」とあった。
よし、もう少しだ。しかし、ここからがつらかった。喘ぎ喘ぎ、一歩ずつ、
休み休み登る。
そしてついに…。目の前にアルプスの山脈がぱあっと広がった。
大感激だった。目の前に槍ヶ岳が凛とそびえ立っていた。
大パノラマを見た瞬間、辛い思いをして登って来てよかったと思い、後
押ししてくれた息子に感謝した。