ナガサキアゲハ |
蝶の季節もそろそろおしまいだ。
公園のベンチに座っていると、ペンタスの花にナガサキアゲハがやっ
て来た。翅を小刻みに振るわせながら、一生懸命花の蜜を吸っている。
翅はもうかなり痛み、あちらこちらが欠けている。まさに満身創痍とい
った感じだ。それでも小一時間花から花へ、懸命に蜜を吸っていた。
以前、僕は蝶を採集していた時期がある。
ネットを振り回し、蝶を捕まえ、標本にすることになんの心の痛みはな
かった。
今は違う。
ネットで捕まった蝶は「どうしてなの? ここから出して、お願い」と叫ん
でいる。親指と人差し指で、小さな胸をギュッと圧迫されて殺される瞬
間は「やめて、助けて! 苦しいよ」と悲鳴を上げている。
そんな蝶の悲痛な声が以前は聞こえなかった。
ガンを宣告され、命との戦いをするようになって、初めて蝶の声が聞こ
えるようになった。
いつまでもいつまでも、ナガサキアゲハは花の蜜を吸いつづけていた。